モメンタリ・モーニング
ホロウ・シカエルボク


乾いて荒れた
まぶたが開いて
かすれた小さな
産声が午前を揺らす
きみは何度目かの
救済と絶望のなかで
目に見える世界は
たしかなものではないと知る


クローゼットのなかの
忘れ去られたキャンパスノート
それがきみのクロージャだった
意味をなくした封印は
廃止された線路に佇む駅のようだ


アラームは運命を告げるわけじゃない
それは自分の手で如何様にも変えられるじゃないか
たとえばこんな日に
きみの意識をうまく目覚めさせてくれないものや
きみの神経へと繋がるゲートをどうしたって開けてくれない門番
頼みもしないのに訪ねてくる連中
きみをとどめておこうとする連中…
運命と名付けるならそんなものの方がちょうどいい


窓ガラスは
丈夫で
外界の音をきっちりと遮断してくれる
でもその材質のせいなのか
いつでも少し曇っていて
どうしても落とせない汚れが付着しているみたいに感じる
(もう一度眠ることが出来たら)
そう考えるのは今朝に始まったことじゃない


目覚めなければならない朝が次第に
明るさを増してくるにつれて
きみの血は静かな暴動を起こし始める
凶器を手にした血小板が
きみの血管や循環器に
擦り傷をたっぷりと刻んでいる音が聞こえる
きみはもう耳を塞いだりしない
そうすると余計に聞こえてしまう
きみは天井を見つめ
偽の死期のようだと感じながら
たくさんのライトを隠して
白く発光するアクリルの天井を見ている


夢の内容はぐちゃぐちゃだった
出来事が散乱していて
感情はひとつもなかった
登場人物もみんなちぐはぐなことばかり言って
真意を確かめようとしているあいだにどこかへ消えてしまった
夢のなかできみは
それがどんな内容の夢でも
最後は決まってそこにしかない街の大通りの真ん中でひとり取り残される
シグナルの点滅が
目覚める前に覚えている景色


誰も居ない世界で破られる秩序は罪だろうか
目覚めるといつもそんなことを考える
あのシグナルに逆らったり
その先にあるコンビニエンスストアに潜り込んで
金を払わずにいろいろなものを持って
出てくることは罪だろうか
秩序とは
ひとりでは成り立たないものだろうか?
それを設定するものはいったいどんな世界を
求めてそうしたのだろうか?


(ようするに秩序がなければ
だれかがすぐにふざけた真似をしてしまうのだ)
秩序や規則を
美徳だと語るものも居る
でもきみに言わせれば
秩序が設定された時点で人間というのは駄目ないきものなのだ


きみは小さなころから
時計というものを信じなかった
刻まれる時間というものを
まったく信用しなかった
朝と昼と夜だって
なければないでいいと考えていた
それはだれかの都合のために設定されたものであって
きみの世界とはまるで関係のないものだって


ある意味で
便宜的な世界がきみとは関係のないものになってしまったけれど
きみはそのことには気づかなかった
きみが居るのならばきみの世界というものがかならず存在するのだし
そんな線引きにこだわるのは馬鹿げたことだって思っていた
きみはあまり眠らなくなった
きみはあまり食べなくなった
きみはあまり喋らなくなって
きみはきみを信じなくなった


今夜は夢を見るだろうか
あの夢のなかで
きみは
なにかちがう出来事を起こしてみたいと考えるばかり


自由詩 モメンタリ・モーニング Copyright ホロウ・シカエルボク 2018-09-24 23:58:50
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