雨の町
オイタル

信号を抜けると駅が小さな口を開け
その口の中にざぶざぶと雨が流れる
その口の中をしきりと鴉が覗き込み
鴉が入っては抜け 入っては抜けして
鋭利な風が立つ

風の中
おんなが頭を垂れて
ゆがんだ地面の地図をなぞり
おとこは両腕を組んで
売店の緩い看板に近づく
遠方の空は黒い顔をかしげて喉を鳴らし
ショウブの陰で猫が
いつとも知れぬ雨やみを待つ
戸板一枚のラーメン屋の軒下を行くのが鴉
急勾配のトタンの屋根の軒先を打つのは雨
雨と鴉
風と信号

信号を抜けて駅に立つ
駅で雨空をうかがう白塗りの預言者たち
 明日の空を予言し
 靴底の疲弊を予言する
ポケットから小銭を探して自販機に放り込むと
時折の雨
また強くなる雨
預言者たちは千の予言をポケットに隠し持つけれど
一人として自分の予言を覚えているものはない
箱庭の中で無数の雨風が生まれては消え
生まれては消えていく

 明日の昼までに
 晴れ上がる町の下絵は入稿されるだろう
 待ったのだから 
 雨は当分やまないのだから
 
 駅を歩いて帰り着く家の裏の
 うなだれるクヌギの木の枝に
 小さな青いリンゴを吊るして 点して
 その実をずぶ濡れの風に震わして
 そして私の体の中の
 この どうしようもなく下へと引かれるもの
 白く細かな 凹凸のあるものを
 燃え盛る雨に晒して

口数を減らし
雨の飛沫に消えていく鴉
駅が立ち止まる
信号が立ち止まる


自由詩 雨の町 Copyright オイタル 2018-09-24 13:36:21縦
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