AB(なかほど)

潮目


 県庁跡の建物の中で期待もなく調べ物にと
りかかり、時間を待って香林坊に出る。そこ
はほんのひとにぎりの銀座で、渋谷で、新宿
でもあり、池袋の匂いを探して片町に流れる。
スクランブル交差点では薄汚れたバドウェア
の上に、ボアの付いたコートを羽織った天使
たちが。また、その隙間からは彼女達のあこ
がれが目配せを、する。金劇の地下のかつて
茶屋から流れてきたお母さんたちは、またど
こかでどこかの花を咲かせているのだろうか。
犀川の手前では深呼吸もできはしないが、橋
を渡るともうここは歓楽街ではあありません
よ。と週末の静寂。身を委ねる場所は今日も
見つからない。





雨細工


 土の匂いがしてくるとどこか懐かしい気持
ちになり、ああ、もうすぐ落ちてくるんだろ
うな、と思いつつ、風邪をひきやすかったこ
とも忘れて濡れようかどうしようか。結局、
しっとりとするころに石の階段を登って帰る。

 やがて音に変わると、胸が痛くなることも
その都度に忘れて、濡れたくなくてという事
でもないのに

 ざあ

という音にはいたたまれなくなって走る。


 ざあ

こんなふうにいつまで経っても不器用です。


 ざあ

と、雨ばかりの似合うこの街も、不器用です
がとても綺麗です。


 ざあ





千切れても


 犀川の土手にしゃがみ込んだらあ、対岸の
浴衣の色が滲んでん。うちの気持ち、いっく
ら解いても解いても頑固に縺れていくじい。

 いじっかしい


こんなうちの気持ち、こん北国花火大会の六
尺玉に乗ってえ、千にも万にも散ってゆかん
かなあ。


 千切れてこそ見える花もあれん

 千切れてこそ見せる花もあれん


 あるげんて





ぶらっくぼっくす


 金沢の隅っこ、と言ってもこの中途半端に
古い街では、どこがまん中でどこが端っこで、
なんて遅々とではあるが変わり続けていて。
ただ、最後の文化住宅が未だに壊されずに、
次の住人を待ち続けている。用水際に迫り出
したベランダの捨て鉢から野の花が斜めに伸
びていて、せめてもと願う気持ちが、部屋の
中に未だ消えないままで、消えないままでい
るのだろう。

 未来ってなんなのさ
 夢ってなんなのさ

昨日の幸せを振り向けないままで、明日幸せ
になろうなんて。平成から昭和への思いにう
ねる道の向こうでは、古い茶屋が瓦礫に変身
し、その向こうの田んぼが整地され輸入風住
宅が立ち並ぶ。

 ここは、僕の街ですか
 未来ですか
 帰る場所ですか

何になれるのか判らなかった、あの日の僕に
戻りたく。せめてもと願う気持ちがあの部屋
の中で、未だ消えないままでいるというのに。
振り返ると、捨て鉢のタンポポは

 バイバイ

って揺れて、そうやって、辿り着けない帰る
場所が少しずつ増えていく。


 パンドラパンドラ

って言いながら、ただ笑っていただけのあの
日々に、手の届かない夢なんて、なかった、
のかもしれない。





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自由詩Copyright AB(なかほど) 2018-09-22 17:56:40
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