尊厳
葉leaf



私は聴衆の前で演説をしていた。党の偉大さについて語ると聴衆は喝采を送って来た。党の綱領に従順であれと説くと聴衆は感激した。だが私の言いたいことはそれだけではない。私はもっと人間の本質について語りたい。それで、私は人間の尊厳について語った。すると聴衆は私の話に興味を失った。私は焦ってさらに人権の重要性について語った。聴衆は勝手にざわめき始めた。そこで私もあきらめて再び党への忠誠心について語った。すると聴衆は一斉に歓喜した。私は自分の役割について考えた。どうやら私は真実を語るという幸福な役回りには無いようだ。党にとって都合の言うことだけを語る役目を与えられている。私がいくら人間の真実について語ろうと誰も聴こうとはしない。私の役割はなんと不幸な役割なんだろう。私にとって党の存在と人間の尊厳は決して矛盾するものではなく、むしろ人間の尊厳を実現するために党は存在していた。だが、その一貫した体系を語ることを私は許されていない。党の論理を掲げて人間の尊厳を秘すること。私は明日もそのようにして講壇に立つ。


自由詩 尊厳 Copyright 葉leaf 2018-09-21 02:20:41縦
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