わたしはあの日けものだった
やまうちあつし

君のことなんか忘れた

瓦礫が撤去され
補償が始まった
慰霊碑が建立されて
仮設住宅が閉鎖された

君のことなんか忘れた

新しい道路が通り
ショッピングモールが出来た
地下鉄が東西を往き
新しい校舎が建った

君のことなんか忘れた

おいしいものを食べ
スポーツで汗を流し
野菜もちゃんと摂り
健康に気を配り

君のことなんか忘れた

仕事が忙しく
遊びも忙しい
誰かと笑ったり
誰かを泣かせたり

君のことなんか忘れた

時折スマホから
警告音が鳴り
そんな時だけ思い出す
あの日の夜空
人間の営みが
鳴りをひそめた頭上で
一面に
星がばらまかれていた

言葉をなくした
故郷をなくした

わたしはあの日けものだった
いいや本当はきくらげだった
吠えることすらできなくて
ぷるぷるふるえていた

けれどもそれも
すぐに忘れる
〈頭がちょんぎれたような
 ひどい物忘れだ〉

それぞれの暮らしがあって
それぞれに家族があって
それぞれに事情があって
それぞれの時間があって
   
君のことなんか忘れた

しあわせになりますか
しあわせになれますか
しあわせになりたいか
しあわせにならないと
   
いけない

どこへも
いけない

君のことなんか
忘れたい


自由詩 わたしはあの日けものだった Copyright やまうちあつし 2018-09-12 20:46:39縦
notebook Home 戻る  過去 未来