音楽
やまうちあつし

大きな波がやってきて
ふるさとをさらっていった

そこには金の楽器があって
音楽が保存されていた

夕暮れの歌
あの時の歌

昔奏でた旋律は
どこへ行ってしまっただろう

ひとは一生の間に
いくつもの音楽と
出会うわけではない

魂の輪郭をなぞるのは
ひとつかふたつ

魚たち
私の歌を知らないか

海流の狭間に漂っていないか
海底の瓦礫に絡まっていないか

親愛なる
魚たち
泳げない私の代わりに
それを探してくれないか

もう何年も
私の耳は貝殻のよう

海は凪いでいる
金の楽器を
どこかに隠し持ったまま

私はこのまま
老いてゆくのだろうか

私の中で夕焼けは
まだ沈んでいないのに


自由詩 音楽 Copyright やまうちあつし 2018-09-08 17:29:14縦
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