夜中のクシャミ
坂本瞳子

ひとつクシャミが響いただけ
それだけのことだ

こんな夜中だけれど
足音も聞こえないけれど
扉が閉まる音もまだ聞こえてはいない

こんな夜中に
うちのアパートの前
通路を誰かが歩けば
床も軋む

誰かのクシャミが響いた
それだけのことだ

猫かもしれない
そうさ
猫だって
クシャミくらいするさ

まあるい月が輝く夜だ
さっきまでビカビカと空全体が
大暴れする雷で
揺らいではいたけれど

なにが起きても不思議じゃないさ
いまのいまなら
風だっておさまったのだから

熱を含んだままの夜風は
どこかへいった
まだ湿っているのだから
探さずにいよう

太陽が迫り来る前の間は
好きにしているがいいさ
ほらもうクシャミも聞こえてはこないから


自由詩 夜中のクシャミ Copyright 坂本瞳子 2018-08-27 23:35:29
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