「最後の花」
桐ヶ谷忍

地上で最後に咲いた花には
目がありました

かつて生存したあらゆるものが死滅し
文明の残骸さえ塵になった地上で
とうとう最後のいのちになった花は
青黒い雨に打たれながら
薄汚れた白い花弁を見、
空を仰ぎました
目に入る雨は有害物質を含んでおり
当たると激痛がありましたが
花は最後の生命として、凛と
荒涼たる天地を見詰めました

花は、愛でられてこそ、花

けれど自分を見てくれるのは
もはや誰も、何もありません
口があれば嘆いたでしょう
けれど花は目を見開く以外
何も出来ません
毒液そのものの雨を一身に受け
花は泣きました
ひとりぼっちを泣きました
朽ちていく我が身を泣きました
花としてうまれたのに
何者にも愛でられないまま
死んでいくことを泣きました

花は最期まで目を見開いたまま
絶えました

うつくしい、と囁いてくれる何者かを
最期まで探し求めて地に倒れました

地上最後の花は
これまであまた咲いたどんな花より
花としてのいのちを全うしたのです



自由詩 「最後の花」 Copyright 桐ヶ谷忍 2018-08-24 19:15:46
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