「祈りの残骸」
桐ヶ谷忍

雑木林の奥の崖まで行く癖がある
そんな時に偶然見つけたのがこの教会だった
天井近くには鳥の巣まであるほど廃れていて
キリストは取り外されたのか
薄汚れた大きな十字架があるだけだった

軋む長椅子にぼんやり座っていると
ここには、息苦しいくらい密度の濃い
叶わなかった祈りが充満しているのを感じる
かつてこの場で救いを求めた人々の想いで
窒息しそうなのに
それがやけに心地良い
私にも、なにかにすがってでも
叶えたくて、叶えられなかった願いがある
かつてここを訪れた人々も
そうした願いを抱えてやって来たのだろう

全ての祈りの根底には
かなしみがある

だからここは寂れてしまったのではないか
祈ることは
かなしみを直視することだから

鳥の巣はカラだった
無事に巣立ったのだろう
来年またここへ帰ってきたら
この場に満ちた祈りの残骸を
餌と一緒にわずかでも飲み込んで
また飛び立ってくれるといい
私の遣る瀬ない想いも含めて
人々が祈って届かなかった先の
天へ

割れたステンドグラスから西日が射して
埃のつもった床に
ゆらぎのうつくしい模様が落ちている
それはまるで
祈りのかたちのようだった



自由詩 「祈りの残骸」 Copyright 桐ヶ谷忍 2018-08-19 07:21:26縦
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