八月坂
塔野夏子

この坂は夏のてっぺんから
少しずつ下ってゆく坂
向日葵や百日紅の花びらのふちで
夏の光が砕け散って
じりじりと蝉は啼いて
またそれがふと啼きやむ静寂があって

日傘をさして
この坂を下ってゆくと
時折目の前をよぎる
モノクロームの情景があって

それは私の記憶なのか
それとも誰かの記憶が
私の意識に幻影しているのか
――わからない
ただどこからか
祈りの声が聞こえて

そんなとき私は
しばし立ち止まり目を閉じる
モノクロームの情景が
まぶたの裏でわずかに色づくような……

――目を開ければ
ふたたびあざやかに向日葵 百日紅

じりじりと蝉は啼いて
私は下ってゆく
夏のてっぺんから
少しずつ下ってゆくこの坂を

白くまばゆかった夏の光は
やがてさびしい金色を帯びてゆく



自由詩 八月坂 Copyright 塔野夏子 2018-08-13 11:46:32
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