夏は暑いね
青花みち

夏は、あついね。なつは、暑いね。なつ、は、あつい、ね。なつ、なつは、あああつ、あつい、ね。

舌が上あごにはり付いて、喉の奥が粘っこくなって、呼吸が絶える1秒前にようやく正しく伝えることができる。「夏は暑いね」

わっ と歓声が大きくなる。あなたは高校野球を見ている。ガッツポーズをしている。察しが悪いと責めることすら億劫で、台所のアジシオを手に取り大きく口を開けた。思いきり振った。唇だけ冬を迎える。窓から射す太陽に反射して、きらきらきらきら。ミネラル不足なら口付けてくれますか。どうですか。「夏は暑いね」

暑い中眠くなるのは熱中症の初期症状なんだって、インターネットで見たよ。失神まがいを繰り返す。熱がこもって死にそうなんです。「夏は暑いね」こちらに目もくれないあなたは高校野球を見ている。「夏は暑いね」あなたが野次を飛ばしたその男の子には家族がいて友達がいて好きな子がいるの。パワプロのキャラじゃないよ。関係ないでしょうよ、それはそうでしょう。それにしても「夏は暑いね」

色鉛筆にあるかどうかでしか色の定義ができないあなたと言葉を交わすたび、わたしを守る子どもがひとりふたりと死ぬ夢を見ていた。唇を舐める。塩辛くてむせる。そんな夏です。平凡なおしまいです。


自由詩 夏は暑いね Copyright 青花みち 2018-08-07 22:30:24
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