おわりの譜
秋葉竹


り〜んご〜ん り〜んご〜ん

葬送の鐘が鳴るまえに、
望月が光り、さらさらと降りしきる下界、
かわきたての夜の街は
月光の白色でまっさらになる

けれど海へつづく坂道をころがる
僕の自転車は
しっとりと濡れそぼった
アスファルトの黒に残された、
あの人の自転車の
ひとすじの車輪のあとを追うしかないんだ

あくる朝は
しのつくやさしげな雨のなか
あの人のか細い息を絶やさないために
この街の風景によりそう孤独な部屋を出て
それでも
あの人の信じた熱いひかりの国の
清く涼しげな川床を想い浮かべながら、
風船の金魚を追いかけることになるだろう。

(ただの、予言さ。)

群れる風船金魚の優雅な孤独に
ひとり、ひとりの気楽さと、
ひとり、ひとりの希望の憧れを
感じさせられることとなるだろう。

(これも、そうさ。)
(寂しくなんか、ないさ)

ひととき、
手にはいった『深海の泉』の深淵をかたる
あまねく、
絶海の世界の風船金魚たちのばらつきには、
ひとりぼっちを救うあたたかい
深夜てっぺんへのすり合わせが必要、だね?


そう、かね(鐘)?

り〜んご〜ん り〜んご〜ん

朝は、寂しくなくなればいいのに、

り〜んご〜ん り〜んご〜ん

消え入りそうな暗い心象風景を知り、
葬送ゆえの迷いなのか、
わからないのだけれども、
桃の絵柄の巨大な金魚鉢は
風船金魚の不在を感じたまま
なんども、なんども、首をかしげ、
遠い未来を見据えようとするだろう

(これは、予定調和かも?)


り〜んご〜ん り〜んご〜ん

そんな、
しずしずと葬送された悲しみを鳴らす金魚鉢を
この、乾きやすく、濡れやすく、坂道の多い街の

り〜んご〜ん り〜んご〜ん

葬送の憂鬱の譜としようか?








自由詩 おわりの譜 Copyright 秋葉竹 2018-08-04 05:16:27
notebook Home 戻る  過去 未来