夏の魔物
ミナト 螢

金魚が泳いでポイを近付ける
尾びれで破られた薄紙はまるで
朝に剥がした障子みたいに
穴を開けながら太陽を見てる

残念ですねと言われたとしても
金魚が欲しかった訳じゃなくて
逃げるようにやって来たこの街で
誰かに気付いて欲しかったんだ

花火も上がってないまま帰ると
この場所に忘れ物をした気がして
後悔だけを持参する夜が
ラムネのビー玉をうまく落とす

喧騒の中で浴衣を着ている
帯が華やかに色付いていて
後ろ姿が似ていたから僕は
お母さん!と思わず叫んでしまった

大人になれたつもりでいたのに
心はまだあなたを探したまま
小さな下駄を履き慣れる前に
背伸びばかりの爪先で歩きにくいね


自由詩 夏の魔物 Copyright ミナト 螢 2018-07-30 10:18:23
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