空から
こたきひろし

落ちて来る、落ちて来る。訳も解らず否応なしに落ちて来る。真っ逆さまに落ちて来る。
地面に激突するまで落ちてきたから、その損傷の度合いは酷かった。

それが悪い夢なんだと気づいたのは眠りから覚めたからだった。
体は不快な寝汗をかいていたが、夜はまだ明けていなかった。
6畳の部屋の中は真っ暗。男は天井に眼を開き見つめた。
どうしたの?
布団の上。隣で眠っていた筈の女も眼を覚ましてしまったらしい。
何だか魘されてたわよ。怖い夢でも見てたの?
女が訊いてきた。
男も女も暗闇の中で言葉を交わした。
空から真っ逆さまに落ちてきた。地面に叩きつけられてグシャグシャになって、いっかんの終わりになった。
男は答えた。
それは怖い夢を見たわね。現実にならなければ良いけど。
女が不吉な言葉を口にした。
冗談よ。
言って直ぐに取り消した。私たち幸せの絶頂にいるんだからそんな事起こるわけないわよ。
何だか答えになってないような答えだった。
それから言葉ではなく、女は男の体をしがみつくように抱いてきた。男の口を探り当て唇で塞いできた。

男は空から真っ逆さまに落ちて来る夢から、一気に空へと昇っていく快感に襲われた。
真冬の一夜。



自由詩 空から Copyright こたきひろし 2018-07-29 07:18:54
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