冗長な雨のリズムとだらしない詩情のジャム
ホロウ・シカエルボク


ルーズにこんがらがって
筆箱は本棚の二段目
トローチはテレビの下のラック
レターセットは引き出しに
昨日の夢は枕カバーと
洗濯籠のなかで眠っている
「明日も雨」と天気予報
家を揺らすほどの風
エレクトリックスのグルーブ

読みかけの小説のページは中盤辺り
飲み干したインスタントの後味はまずまず
週末の予定はひきこもり
ゴダールかそれともホラーショーか
それともクローゼットを少し整理しようか
自転車に乗ると考え事が増える
インストルメンタルは詩のきっかけを連れてくる
けれどもうこんな時間だし
歯でも磨いておくべきかもしれない

もはやなんのためかも判らない
一日のために疲労を溜め込んで
テレビを観ながらうつらうつら
目が覚めるころには本当に寝る時間
網で水をすくうみたいな気分
そんなことで汗をかいてばかり

「何気ない毎日が幸せ」なんて
そんな言葉に騙されて
小さな花でも育てて
笑ってられる人間なら良かったのかもしれないけれど
自分以外の誰かに
水をやるなんて面倒臭くて仕方がないし
青春の叫びを止めたスプリングスティーンは
時々妙に小難しい言葉を使うようになった
ボーントゥランって
いまでも歌ってはいるみたいだけど

もう使えないコードが丸められて
なぜか窓の側にぶら下げられている
まるで数年前の日常の記念碑のように
もう通電しない未来を謳歌している
「どんな気がする」ってあいつに尋ねたら
いったいどんな答えを返してくるんだろうね

(歯磨きのために中断…)

そう、思い出したんだけど
一昨日から昨日にかけて
キッチンにアリの大群が現れてさ
我が家はちょっとした騒ぎだった
うちの隣は空地になっていて
雑草の絨毯が出来てるんだけど
長雨でぬかるんだ土にウンザリした連中が
水を逃れて上って来たのかもしれないね
それでどうしたかっていうと
薬を仕掛けて一発さ
今朝から姿を見なくなったから
今頃は巣のなかで死に絶えているんだろうね
僕らは自分の食の安全のために
やつらひと家族を根絶やしにしたのさ
まるでカルトな教義を掲げた新興宗教団体のようにね
だって考えてもみなよ
ハチミツの蓋の隙間で固まって死んでるやつらを見るたび
とんでもなく気が滅入るんだぜ

きちんと眠れることだけが幸いだ
毎日ある程度の睡眠は確保出来るようになった
眠れなくて一晩中
コンビニしか開いていない街を彷徨っていたころに比べれば
少しはまともになってきたってことだろう
だけど
午前三時の
誰も居ない公園のベンチに腰かけて眺めた暗闇が
いまでも時々ありありと蘇ってくるんだ
もしかしたらあの夜から
まだどこにも出られていないのかもしれない

きみは人生について考えてみたことがある?
いや、ティーンエイジのころじゃなくてさ
ある程度歳を食ってからさ
そんなことは答えを出す必要のないことだって
ある程度の人間は気付くことが出来るけれどさ
それでも改めて考えてみたくなる瞬間ってあるじゃない
ほら、なんて言うのかな
「考えることはそんなに重要じゃない」ってことが理解出来て初めて
考えることが面白くなるなんていうそんな感じ

さてね、そろそろ眠る時間なんだけど
準備をするのはこいつを書き上げてからにしよう
たまには肩の力を抜いて、なんでもないことを書きたくなって
思いもよらず深い話になっちゃったりして
まあ、でも
テーマなんてない方が人間としちゃ正直だから
そう
入り組んだ単純さとでも
名付ければいいのかな
この世にもしも正解がひとつしかないのなら
寿命なんて百年も要らないじゃないか?


自由詩 冗長な雨のリズムとだらしない詩情のジャム Copyright ホロウ・シカエルボク 2018-07-06 23:24:18縦
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