鬼灯
こたきひろし

時間と空間の間をすり抜けていけたわけではなかった
庭の隅に鬼灯の袋が紅く色ずいていた。
佐代は十三歳。彼女が棲む界隈では名の知れた商家の一人娘だった。
噂では、両親の間の実子ではなく何処かの未婚の若い女が孕んで産んだ子供を乳飲み子のまま貰い受けて養女にしたとか言われているが真偽のほどは解らない。
商家の大きな庭の隅の鬼灯は季節が来るのは佐代の楽しみであった。鬼灯の色づいた袋の中から赤い実を取り出して縫い針を上手に使い中身を抜いて空にするとそれを口に含み舌を使って鳴らすのだ。
佐代は鬼灯の実を鳴らすのが好きだった。

庭は外の通りと垣根で仕切られていた。佐代が鳴らず鬼灯の音に若いサムライが足を止めて聞き入った。
そしてサムライは垣根越しに可愛い少女を盗み見た。そして佐代はその熱い視線に気づく。
しかし商家の庭と垣根を間に挟んだ通りとの間には時間のずれがあったのだ。
どういう事かと説明すれば、商家の庭は明治の初頭。比べて商家の外の通りは幕末の時代で、到底埋まらない時代の壁が生まれていたのだだけどそんなタイムスポットは至るところにあってけしてめずらしくない。
だが人は誰もその事に気づかない

佐代も若いサムライもそんな事情に二人とも気づいてはいなかった。
若いサムライは行きずりに佐代を見初めたのだ。
しかしそれは永遠に埋まる事の叶わない哀しい時間の壁とズレに阻まれていた


自由詩 鬼灯 Copyright こたきひろし 2018-06-28 00:28:40
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