きみが傘持ってかなくていいよっていうから
カマキリ

ぼくは人生で何度目かの後悔をする
もう二度と人間なんて信用するもんかと
頭を垂れて天気を確認する人たちの群れを
他にどうしようもなくてただ眺めていた

ふときみのお気に入りの水筒のことを思い出す
銀色で無骨でなんの可愛げもないやつだ
中に入っているのはいつだって
少しぬるめの紅茶だった
いつか白い服を着たきみが
コップをぼくに渡そうとして大惨事になった
大きなシミをつけたきみは
いっそ雨が降ればいいのにってぼやぼやと笑った

その結果がめぐりめぐってこれかどうかは
わかりもしないけれど
とにかくぼくは赤いレンガに足を突き刺したように
この場から動くことができないんだ

そうこうしていると
きみがお気に入りの傘で
手にはもう一本、ビニール傘を携えて
得意げな顔でやってくるのが見えた気がする

きみが傘持ってかなくていいよっていうから
でもあなたは天気予報を見なかったでしょ

ああ、そうか


自由詩 きみが傘持ってかなくていいよっていうから Copyright カマキリ 2018-06-26 20:12:25縦
notebook Home 戻る  過去 未来