凡人の爪
ミナト 螢

Tシャツの上にプリントされた
ネクタイの模様は僕のように
子供と大人の顔を持ったまま
世界へ出て行く覚悟がなかった

寿命が伸びてるこんな時代に
敗北を認めるのは早すぎて
夢はひとつでも見つけにくいから

手に入れた時は
ここへ来てよと胸を張って言える

メダルやトロフィの数なんかより
原稿用紙の升目を埋めて
爪を切るのがとても楽しかった

はみ出しそうな情熱の星で
名前はないけど作品は残る

書き終えた後にペンを置く時の
燃え尽きた身体を羽ばたかせて
幾つ目の命を差し出したら
ベストセラーに届くのだろうか

でも僕は命を守りたくて
三日月の爪を空に浮かべて
新作のページを破ってしまう


自由詩 凡人の爪 Copyright ミナト 螢 2018-06-25 16:48:13
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