箱の中の箱
Seia

余計な荷物をしまおうとして目に入る
押入れの奥に置かれた段ボール
ふた箱分のCDを
買った順にはじめから
開封して聴きたくなっている
何を天秤に乗せたらいいのだろう
外にはもう出たくないのに

わたし以外に向けられた
駅近くのファッションビル
逃げるようにドアを閉めた多目的トイレで
ありもしない視線と
あったかもしれない視線を
同時に再放送する
自分の姿が鏡に映って(サイレン)
ここではないと
右半身が痙攣する

気がつけばいつも
テーブルに伏せている
帰宅途中に買ったカフェオレはぬるく
冷蔵庫の前で
ビニールにくるまれたまま
空かないお腹にフィットチーネ
三種だか五種だか
もったりとしたチーズをからめとって
はじまりの予感は
見事にはずれたらしい

ザッピング中に辿り着いたのは
タイトルもわからない
どこかの国の映画
字幕を拾おうとしても
五分そこらで終わってしまって
ベンチに座って
放心する女性を最後に
エンドロールが流れていく
テレビの電源を消しても
いつまでも同じように座っている気がして
枯れ葉舞う公園の脇
その隣に座りたいと思った
できることはなんにもないけど

ペットボトル製の風車がからからと
ざらついた夕日を見送っている
壁に耳を当てても
向こう側から声は聞こえない
ひとつ知識を得ても
口から(耳から(目から零れ落ちていく
部屋中に散らかったものを
しょうがなく天秤に乗せては
重く傾いた方を
段ボールに詰めていく


自由詩 箱の中の箱 Copyright Seia 2018-06-24 23:37:41
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