あなたの感情の中に
こたきひろし

あなたの感情のの中に
1つの欠片でも私があるのなら

それを1つの種子にして
私はあなたの中に蔓延りたかった

過ぎてしまった歳月の中に
ふとよみがえった記憶には
切ないあなたへの恋心が畳み込まれていた

あの日
あの夜に
私は思いを告げられずに
あなたの靴箱のあなたの靴の下に
一枚の紙切れ
メッセージを忍ばせた
差出人の名前も書かずに

なのにどうして
ろくに言葉を交わした事もなかった私に気づいてくれたんだろう

あなたはあの夏の日に

私か厨房で働いていたパブレストランにバイトで入ってきた
店長が店のスタッフに紹介した
短大の一年生だと、保母さんを目指しているんだと

あなたは、その時点で私の到底手の届かない所に咲いていた
可愛い花

比べて
私は分別を持たなければならない三十才
独身男ときたもんだ

何ができる
何もできない
指をくわえて眺めるだけさ

もし恋慕してしまったら心臓破裂してしまうだろう
もしそれ以上を妄想したら罰当たりになるさ

私はよそよそしくて冷たい素振りをして見せた
なのにあなたは優しくて可憐に振る舞った
どうぞ私を存分に好きになっていいですよ
と「おいで、おいで」をするみたいに

しかし
それは巧妙に仕掛けられた罠なんだ
あなたの本心は
純真無垢な天使
自分の罪悪に何も気づいてないだろう

なのにどうしてあなたは私に気づいていたんだろう
偶然を装ってあなたの帰り時間を待ち続けただからだろうか

私が思いを託したメモを忍ばせた翌日
彼女に思いきって言ってみた
今度一緒に映画でも見に行かない?
そしたら彼女が訊いてきた
いつですか?
と訊いてきた

私は返答に窮して言葉が出て来なかった
高いところになっている果実を背伸びして取ろうとしたら
バランスを失って転んでしまいかねない
不安と危惧に邪魔されて



自由詩 あなたの感情の中に Copyright こたきひろし 2018-06-24 10:08:35
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