永遠の雨
田中修子

いつくしみを
ぼくに いつくしむこころを

ひとの知の火がなげこまれた
焼け野が原にも
ひとの予期よりうんとはやく
みどりが咲いたことを

 アインシュタインはおどけながら呻いている
 かれのうつくしい数式のゆくすえを

あなたがたの視線はいつも
ぼくらをすり抜け
よその とおくの つぎの

 ちいさなヒトラーが泣いている
 打擲されてうずくまっているあわれな子

ここにいる ここにいるのだよ
ぼくは そうして きみは

母の父の
わらうクラスメイトらの
まるで 業火のような
そしてこのようなひ ぼくのことばもまた

 あのひとびともまた かつて
 愛情を泣き叫び希う
 子らであったことを
 ぼくに あのひとらに
 おもいださせておくれ

雨よ、ふれ

六月の雨、紫陽花の葉の、緑けむる
淡い水の器がしずかに みたされてゆく
あふれだす色の洪水で
ぼくの
母の父の
クラスメイトの
科学者の独裁者の兵士の
胸に焼け残っている
優しいものだけ
にぶくかがやく砂金のように
とりだしておくれ

 絵本を破ることのできるちからづよい
 手をくるめば
 ぼくは
 いまここで、永遠に
 だきしめられた

きみもまた永遠を
かならず
与えたひとであったのだ


自由詩 永遠の雨 Copyright 田中修子 2018-06-21 00:31:00縦
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