ジンジャーはちみつレモンティー
藤鈴呼



煌びやかなネオン通りや 
切なすぎるメロディーよりも

心潤す存在があるとすれば 
喉を潤す生姜紅茶だろう

君は何時も
何かを勘違いしていて 

ジンジャーティーと言えば
ブレッドマンと続けたり

甘ったるいクッキーの味を連想して 
にやけてみたりもする

そういう処が可愛らしいのだけれど、
とは思うが

刺激を含んだドリンクのように 
一瞬 詰まったりする

会話の中で 
二の句を継げなくなったりすることは

有り難いことに 最近では 
ほぼ 無くなった

昔は 
「沈黙の時間が苦じゃない相手が理想」 
なんて言っては

長かった髪をかき上げて 頬杖ついたりも 
したもんだ

君が勘違いしている「何か」が
「なに」で在るのか

説明しようとすれば 
上手く言葉が出て来ない

要らぬ台詞ならば 
ゴマンと出ては離れないのに

もしくは君の心を 
閉じ込めてしまえるものならば
もっと 良かったのにね

喉の奥に 小骨が刺さったような… 否
今日の気分は洋食に決まりだ

だって クリスマスなんだもの

魚の小骨じゃあ なくったってね
本当は 自分が肴になる位が 丁度良かった

食事の最中 
君は何度も繰り返した

窓の外を駆け抜ける 大型トラックを眺めては
「かわいそうにね、今日は クリスマスなのに」

宅配トラックを眺めては
「仕事だろうけど、大変だね、クリスマスなのに」

少しの同情と憐み 
ともすれば優越感や安息をも
表現された 一言だったのだろうか

振り返った 僕の瞳には 
涙雨が伝う 硝子が見えた

僕が 泣いていたんじゃない 
空が 代わりに 哭いてくれたんだ

そんな 洒落たことは
言わないけれど

ちょっと 
代弁してくれているような気がして

ホッと一息ついてしまったのは
否めない

たった一言が 衝撃派となって
何度も押し寄せて来る

そんなコトってあるだろう

丁度 テレビ画面で誰かが喋っていた
「心が風邪を引いて云々…」

嗚呼、そうなんだ! 
そんな感覚なのかも知れない

ほんのちょっと ガサガサした
喉みたいに

小骨の代わりに 生姜の欠片が挟まった
歯の隙間から

苦しいよって言う代わりに 
呻き声が 漏れるみたいに

聴き様に寄っては 鳥の囀りに似てなくもない
勘違いするならば 聖なる鐘の音だとも思いたい

そんな錯覚が 許されぬ程 
破壊力のある 一言がある

あの日 少し 風邪気味だったので
何時もはしない料理を 君がしてくれた

メニューは何かのパスタだったと思う
そうだ 君の好きな ミートソースパスタ

その後で 年賀状を書かないと… 
と パソコンに向かって

私はテレビに向かって 閉じそうな瞼を
こじ開けていた

あの音に関しては 
今更 驚くべきことじゃあ ない

君の言う通り 
もう 何千回も 放った音

くしゃみが ハックション! と 表現されるとして
おならが ぷ~う! と 放たれるとして

しゃっくりは 人それぞれだろう
ひいっ 引き笑いのようになってみたり 
アレンジが入ってみたり

何度か続いた後で 一言 ぼそっと呟いた
「きたない」

汚い
キタナイ
き た な い

出会って十年程になるが このタイミングで
ワタクシは キタナイソンザイとして ニンシキされたのだ

アナタはワタシの方を チラリとも見やることなく
視線は画面に釘付けで その後のフォローもなかった

たった それだけのこと

何の気なしに 放った一言は 放屁よりも馨しく
我が心を打ち破ったから こりゃ一大事

寝ても覚めても 私は
汚い者として生きることを余儀なくされた

枕が濡れるのに不思議を感じたのは 
何故だろう

そうだ
涙が 上に流れて行ったからだ

ドラマのように 格好良くは いかない
耳の穴に入って行く水滴は 結構えげつない

ぞくっとする
そんな自分に ゾクッとする

身震いがする
熱が上がる

朝が来る 昼になる 夜になる 二人になる
朝が来る 一人になる 私は眠る 夜になる 私は眠る
ワタシハネムル

何かが スウッと引いて行くのを感じた
清々しいミント味のキャンディーならば
思い切り 深呼吸 出来るだろうに

あなたは 薄荷が キライでしたね
思い出の中で そう呟けば キシリトールが呟く
歯の健康は命です

芸能人じゃないから 今更
歯の黄ばみなんて 気にしないとか言いながら
血が出るまで 電動歯ブラシを動かしてみたりもする

ほんの とお 数えた頃
それくらい昔の ある夜

私達は 冷えた身体を 
ジンジャーティーで 温めた

あの頃 二つの心は 
同じような角度で 綻んでいた
結ばれた紐が 解けるのは 道理

それぞれの 旅立ちへ向けて 準備を始める頃
素敵なジングルベルが 鳴り響く

同じ湯船に浸かっても 何だか生温い それは
なまぬるいカンケイ なのではなくって
ココロがササクレダッテイルだけのお話

お箸を取り直して 
取り零したものを 一つまみして

それは そう 例えば 
この季節なら 年越し蕎麦

かしわ汁を作って
柏手を打つ頃

私達は 空の上
南の空へ 飛び立つのね

あのね、あなたいつも まちがえているんだけれど
あのひ のんだのは はちみつジンジャーティーなのよ

檸檬なんて ひとっかけらも 入っていないの

うん だけど
何となく 合うような妄想も してきたわ

どんな味が するのかしらね

お店のお姉さんに 質問された
クリーム系の味って 飽きない?

私はドロドロ系が大好きなので 飽きないけれど
誰か他のお客さんに 言われたんですか?

ううん、違うの。わたしがね、飽きるから。
「ワタシガネ、アキルカラ」

褒め千切った翌朝の胃もたれは 
二人 おんなじ

あれ あんなに おいしかったのに おかしいねって
笑い合ってる

大きなカップの中で 生姜の欠片が ぶつかり合って
その内 喉の中に 共に 吸い込まれて行く

胃袋の中で はちみつと 紅茶と 同化して
どうかしていた過去なんて
どうでも良い位に
笑える位の おとぎ話に 代わっていくから

だから どっちかって言うと
生姜は 
磨り潰してない方が 好きだな

喉に刺さった 小骨の代わりを 見つけた
言いたかった 台詞の渦だ

渦潮に遭遇した記憶はないが
船の上から眺めると 
きっとこんな感じなんだろう

自分だけ ずぶ濡れ回避しておいて
水滴の一つ一つを 綺麗だね、なんて言いながら
眺めて居る

それこそが 汚さ だったんだな

例えば他人の車のワイパーの動きや
イコライザーから
眼が離せなくなったりする夜に

目の前のシグナルが
青から赤に代わろうとも
関係ない と 言うみたいに

黄色、だったなら
何か 代わっていたのかも知れない

中途半端な 今の自分と 
同じくらいの 色合いだったなら

ちょっとは気にして
立ち止まったりも したんだろうって 思う

私は 一連の出来事を 小さなカードに認めて
彼に渡した

二人 とびきりの笑顔で
満腹になった その後で

「・・・なんで ここに こんなこと 書くかなあ」

そんな言葉が凝縮された 
第一声

「そうですか」

そうですか
そうなんです
躁ですか?
ソウかも知れません

楽しい時の波が 引ける時の早さ
小波が 溶ける瞬間の 儚さを見た気がした

立体型のカードの方を
開いてくれたなら 良かった

そこには きっと こう書いてあった筈だ
「あなたに ずっと 着いていきます」

だから 連れていってね
どこへ?

小波の向こう側へ
ワクワクする出来事を乗せて

ちょっと違う
一緒に行こうね
愉しい日々を探して

穴だらけのヒビの深みにはハマらないで
そう祈るだけのクリスマスがあっても いいよね

湯気が消える
流石の生姜力も 何時間もは 続くまい

そう 知っているから
早めにカップを持ち上げて

わたしは また 
はちみつジンジャーティーを
飲み干そうと している

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自由詩 ジンジャーはちみつレモンティー Copyright 藤鈴呼 2018-06-18 00:32:25
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