それから
餅月兎

それからいかがお過ごしですか

墓石の上に揺らめく陽炎を眺めながら
あなたのことを思い返してみるが
明瞭で正確な像を結ばない
緩やかな輪郭がライラックのような香りとともにふわりと漂う


ずっと一緒にいたのにと
からかわれるだろう
あなたはそんな人だ
と思われている

それはわたしのなかのあなただ
あなたからもらった言葉の数々に
わたしは誤解をしていたかもしれないのだが
おそらくあなたも
自分のほくろの数も位置も把握していないし
後ろ髪の寝癖に気が付いていない

こんな時期だったろうか
洗濯前のわたしのシャツを納豆のにおいと喩えたのは
そういえばあなたはライラックのようなにおいがした気がする

わたしたちは幸せな誤解でつながっていて
ときに不幸な誤解で仲違いする
ほんとうのあなたが知りたいと願いながら
近づいているのか遠ざかっているのか
本当は誰も知り得ない

墓石に刻まれた名前も
もはやあなたのものではなくて
これからのわたしにこそ必要な道標


わたしはあなたにどう見られているだろうか
意味は定義の狭間を揺蕩う
墓石の上に揺らめく陽炎のように


自由詩 それから Copyright 餅月兎 2018-06-10 12:04:10
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