亀裂
ただのみきや

亀裂が走る
磨き抜かれた造形の妙
天のエルサレムのために神が育んだ
光届かない海の深みの豊満な真珠と
人知れぬ絶海に咲きやがては
嫉妬深い女の胸を鮮血のように飾る珊瑚
その両方から彫られたのか
濁ることも混じることもなく一体の女神像に


亀裂が走った
鍛え抜かれた鋼の意志
処世の鎧を身にまとい
働き続けて止まることなく戦車のように突き進む
積み重ねられた日々が城壁となり
守ってくれるはずだったが
間者がいるかのよう 内から聞きなれない悲鳴
それが自分の声と気付かないまま


亀裂が走る
卵の殻より脆く蛹より薄い
上澄みが被膜化しただけの
美しいペルソナが萎んで往く
手にしかけた言葉を掴み切れず一息の風が漏れた
女の素肌を包む 喜怒哀楽綯交ないまぜの
透き通った衣のよう なよやかな匂いが
赤錆びた血に変わる




                《亀裂:2018年6月9日》









自由詩 亀裂 Copyright ただのみきや 2018-06-09 18:01:03縦
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