不運も幸運もすべてシャッフルしたような雨上がり、ひとり洗濯機を回す。
そらの珊瑚

朝から珈琲をぶちまける。おそらく私が無意識にテーブルに置いたカップは、テーブルのふちから少ししはみだしていて、手を放した数秒後引力の法則によって、まっとうに落ちた。……なんてこった。一瞬の気のゆるみが、惨事をまねく。小さい頃からそれは幾度となく体験しているはずなのに、まるきり学習していない。まだ半分覚醒していない脳内に、それはこだましていく。半分覚醒していない脳は、無理やり起こされた腹立ちで、理由のない怒りを産む。なんでおまえは珈琲カップをテーブルにちゃんと置かないのだ。ソファーはまだいいとしよう。革は拭けばなんとかなる。問題は、コタツ敷きだ。もっと早く片付けておけばいいものを、ずるずると6月まで出しっぱなしにしておいた罰なのか。神様はきっとなまけものがお嫌いなのだろう。そもそもコタツを出すのは嫌だったんだ。コタツの魔力で、家族はトド化して(特に娘)寝たら最後起きてくれない。そんな訳で、ここ数年コタツは出していなかったのだが、去年の12月頃、押入れの奥から娘がコタツ一式を引っ張りだしてきた。そうだ、娘だ。全ての始まりは娘の行動からだったのだ。だけど娘はこの4月から家を離れて、ここにはいない。
「誰かのせいにしてはいけません」すっかり覚醒した脳内に、誰かの声がする。神様か、いや、違う。かつて、小さかった娘が何かやらかして、私がそう言ったのだった。私の声だった。もしかすると母の声でもあった。

だけど、こんなしょうもない朝でも、冷静になってみれば、いいことも見つかる。このコタツ敷きを買う時、汚れの目立たないような黒っぽい柄にしておいた事。白色を買わなかったことは幸運だったし、お気に入りのカップは無傷だ。

数年前に割と大きな洗濯機に買い替えたので、コインランドリーに行かなくてよいことも幸運のひとつかもしれない。

神様がいるかいないか、多分死ぬまで知り得ないだろうけど、遠くで啼く鳥の声は、なんて美しいんだろうと思う。やはりどこかに神様はいるんじゃないかって思う瞬間。神様の、まにまに。有名なオペラ歌手の歌より、無名の鳥の歌の方が素晴らしいと思う瞬間。おまけに、無料。うっかりしてしまったことが、もしかすると即命取りになる世界では、誰のせいにもしないでただ生きているから、だろうか。

鳥が啼いているから、たぶん今日は晴れそうだ。


自由詩 不運も幸運もすべてシャッフルしたような雨上がり、ひとり洗濯機を回す。 Copyright そらの珊瑚 2018-06-07 09:34:42
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