夢のなかでは
こたきひろし

夢のなかでは終始眠れなかった。
夢のなかでは巨大なハサミに追いかけられて逃げ回っていた。ハサミが僕のか細い首を狙って追いかけて来たから眠れなかったのだ。

そして僕は断崖絶壁の淵に追い詰められてしまう。じりじりと後ずさりしてから足を踏み外す。その結果は
夢に有りがちなパターンで眼を覚ましたのだ。
僕はベッドの上で無意識に片方の足を蹴ったから眼を覚ましたのだ。

「どうしたの?」
毎夜、同じベッドに寝ている異性も眼を覚ましてしまった。
彼女は背中を向けて横たわっていた体の向きを僕の方に変えてきた。そして訊いてきた。「悪い夢でも見たの?」
僕は答えた。「ハサミのバケモノに追いかけらて首を切り落とされそうになったよ。」
すると、嘘でしょ、と彼女が言った。信じられないという顔をしながら。
「私もハサミの夢を見たの、大きなハサミだった。」
僕は驚いた。「偶然かな?」
「ゴメンね」
彼女が謝ってきた。「私はハサミを持って貴方を追い回してたわ。」
夢のなかでも酷いな、と僕は答えた。
夢のなかだから許して、と彼女は言った。
「それで君の夢の結末はどうなった?」
僕は訊いてみた。
「怒らないかな」
と彼女が言ったから、怒らないよと僕は答えた。
そしたら、彼女は言った。
「ちゃんと貴方の首切り落としたわよ。」って。





自由詩 夢のなかでは Copyright こたきひろし 2018-06-05 07:32:55
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