美しすぎない
やまうちあつし

美しすぎない朝に
美しすぎないコーヒーを
美しすぎない新聞に
美しすぎないこの国の出来事
庭を手入れしよう
美しすぎることのないよう
美しすぎない噂話が
この街で語られることだろう
美しすぎない音楽が
青白い耳をなぐさめることだろう
詩人の比喩は美しすぎない
画家の絵の具は鮮やかすぎない
私のゼブラは美しすぎない
私の孔雀は美しすぎない
私の煙草は美味しすぎない
私の脾臓は美しすぎない
私の武器は尖りすぎない
美しい村の数々を
焼き尽くすほどの威力はない
私の原子炉は美しすぎない
半減期まで起きているには
私の身体は健全すぎる
わたくしのムーンリバーは
美しすぎることがない
天国にくらべたらたいしたことがない
誰かのふるさとにくらべたら
取るに足らない
夕焼けが街を橙に染めた
かろうじて美しすぎなかった
誰かの涙がスプーンに溜まった
それすらも美しすぎはしなかった
けれどもどうしよう
この世には
美しすぎるものたちが
時にあらわれる
美しすぎるものは
しばしば誰かの身を焦がす
子供らの目をふさぎ
大人らの心を閉ざし
この世の誰にも知られぬように
私は信者
私は異教徒
私はうそつき
私はキツツキ
そんなとき
あなたと出会う
よかった
あなたは美しすぎない
五月のみどりの風よりも
午後のけだるい歌よりも
あなたは
美しくない
私はキツツキ
私はうそつき
誰が何と言おうと
ほんとうに
美しすぎることはない
私は異教徒
私は信者


自由詩 美しすぎない Copyright やまうちあつし 2018-05-27 14:50:43縦
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