翻弄
氷鏡

世界の苦しみを背負って飛んだ小鳥が地に墜ちていく様を美しいなどと表現できる傲慢さを捨てられないがために自らの口から出る言葉一つ一つが魂の輪郭を歪めていることに気づけていない、因果応報が形になって現れるまでの時間は人に忘却を促すのに十分すぎて自己の存続手段を麻痺させることだけが唯一の安寧として、フィットしない人格が歩くたびに身体を締め付ける、走ったら瓦解した、ばらばらになる感覚を大切にしようと思った、それは最初で最後だったが白と赤とありふれた虚飾を向かい風に受けながら地面を蹴った分の力だけこの世界から遠ざかることができたのだと思う

聾唖者の幸せを知りたい、目に入るなといいながらその顛末を追い、耳を塞ぎながらもその言葉に最大限傾注しているこの醜い身体を捨てたい 心の壁、敵意、瞳、意図的な無音に囲まれて、自分がいなくても成り立つ世界で毎日のように自分を殺して秩序を保っていたのは結局よく見られたいという願望の成れの果てだったのかもしれない 悪魔に蝕まれるも縋る神もおらず結果的にあらゆる非科学的存在の否定と少量の錠剤がわずかな時間をつくっていた、それは実に詩的でストーリー性にあふれていたが見世物になって憐みを得ようにも自分のプライドが邪魔であった

世辞とは愛想のいい言葉である、どれがそうなのかは分かっていた、応援とは都合のいい言葉である、どれが本物なのかは分からなかった
そんな言葉に背中を押され、私は崖を転げ落ちていった


自由詩 翻弄 Copyright 氷鏡 2018-05-20 22:11:52
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