『悪魔の舌 PART2』
ハァモニィベル

『悪魔の舌 PART2』


五月始めの或晴れた午後のことであった。
3時を少し回った頃、私はただ何となく
空を見上げて、ぼぉっとしたまま、無心な
状態でいたと思う。突然、スマートフォン
が鳴り、ハッと我に返ると Line の通知が
来ていた。

見ると次の数句が記されてあつた、
「<羽の消失がもたらす花の喪失について>という題で、
是非とも貴方様に講演をお願いしたい 301人類」。

交通費、宿泊費など全額もつから、何としても ××県
△△市の○○まで来てくれという内容が確認できた。
くれぐれも独りで来るようにと念を押してある。

(コレは何だろう? この301人類と云ふのは)実に妙である。
知らない相手だし、人物の名にしては奇異であった。詩人的な
謎であろうか?私は考へ始めた。
発信時刻は 3:24。瞬間睡眠から覚めたように必死に考えてみ
たが、どう考へても解らない。兎に角、××県△△市の、その
あまり馴染みのない地方都市までこうなったら、行って見る事
にした。


そこは、温泉地であった。
私は、そこで、脳を食べる温泉につかった。
「鼻から入りますから、どうぞご注意を」
そう言って私に近づいてきたのは、パブロフの蚊であった。
向学心旺盛なパブロフの蚊は、さすがに、細くて長い口を尖らせて
私に訊いた。
「貴方のような人が、何をしにこちらへ?」
「ええ、不思議な伝言をもらいましてね。この街で
 <羽の消失がもたらす花の喪失について>講演をしに来たのです」
私がそう答えると、パブロフの蚊の全身に一瞬恐怖がはしったのが
こちらにはっきり伝わってきた。
「そうですか、それはそれは。特にわたくしに取りましては、Kissは重罪になります」
そう言ったきり、パブロフの蚊は、悲痛なほど、暗く俯いて黙り込んだ。

一言もしゃべらなくなったパブロフの蚊をそこに残し
脳をすべて食べられないうちに、私は、脳を食べる温泉の湯から出ようとした。
すると、そのとき、
パブロフの蚊は、突然、私を引き止めて、こう言った。

「いいですか、気をつけて下さい。この街で・・・、この街では、
 一言たりとも、美しいものを美しいと言ってはいけません。
 美しいものを美しいと言った途端、あなたは死にます。いいですか
 くれぐれも、注意なさって下さい。くれぐれも・・・・」



私は、その夜、もっとも美しい夢を見た。






















自由詩 『悪魔の舌 PART2』 Copyright ハァモニィベル 2018-05-14 15:20:10
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