時の果実をかじる夜
まーつん

時は贈り物だ
どんなに惨めで
苦しい時であっても

なにやら知った風な顔をして
そう言い切るのは、
愚かなのかもしれないが

小さな無人島に立って
ヤシによく似た一本の木から
毎夕ぽとりと落ちてくる
果実を受け取る
 
そうしたら
砂の上にあぐらをかき
果実の殻に石の角を打ち付け
パカリと割る

溢れ出てくるのは
ピカリピカリと波打つ
時間のジュースだ

熱くなく冷えてもいない
生ぬるい果汁が
口の端から顎を伝う
ほろ苦い美味さだ
 
人生と同じように

笑ってしまう程
月並みな解釈だが
本当だから仕方がない

私にとって、
一人だけで過ごす夕べには
そんな愛おしさがある

手のひらに収まる位の
小さな、大切な

その、時の実は
昼間、会社で働く私の
苦しさや虚しさを糧に徐々に膨らみ
日が暮れる頃には、プックラと
小ぶりながらも立派に実って

穏やかに波が打ち寄せる
夕暮れの砂浜を背景に
枝の先に揺れている

私はふと気づくと
背広姿のまま
その無人島にいて
ああ、今日もまた 
ここに来たなと思いながら

ヤシの木によく似た
黒々と毛深い幹を見上げ

細長い緑の葉を
空に向けて
剣のように尖らせる枝の下
風に揺れる果実を受け止めようと


手を差し出している




自由詩 時の果実をかじる夜 Copyright まーつん 2018-05-06 13:29:11
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