バター
ヤスヒロ ハル

ある朝神様が訪れ
世界を金色に変えて

日射しは蜂蜜の味になり
風はいつかの花の香り

人々は優しくなって
眠りは深くなった

時々は雨が降り
寂しさが夜を押し潰す日もあったが
神様が来てから、世界は確かに輝いた

一方世界の裏側で
戦場カメラマンが
この世の地獄のような
景色と情勢を伝えている

私は太陽と、機関銃と、営業成績と、妻と、幼い弟の誕生日のことを思っている

私の戸籍が
美しい世間にあることを幸せと思う一方、
名前もないままに生まれ変わる子供達のことを、
一度も誕生日が祝われること無く
風になってしまう子供達のことをも思う

どうやら僕には子供ができないらしいのだけれど
次の世代のそのまた次の
そのまたそのまたそのまた次の世代あたりでは

優しさと温もりがバターのように染み渡った
焼きたてのパンみたいな世界の
せめて手懸かりが
導かれているといい

今日も時は
静かに明日をベルトコンベアーに乗せる

送られていった私の金色の朝が
はかないもの達の傷を
優しく塞げばいい

そうなればいい


自由詩 バター Copyright ヤスヒロ ハル 2018-04-25 21:26:22縦
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