ふと、する
虹村 凌


先日、友人である日本人が、我らが祖国に帰ってしまった。
前夜に、みんなで夜通し喋っていた。
その時、何がキッカケかわからないが、Mack&Renny(でいいのかな?)を聞いたのだ。
何故かわからぬが、誰が一番早く涙を流すか競争を始めた。
Mack&Renny「To my father」
しばらく聞いていて、俺は普通に泣いた。ヤバイくらいに。
マジで涙出てきた。ボロボロ泣いてやがんの。
お陰で、みんなして変な雰囲気になっちまったよ。


よく、昔の事をふと思い出す。
昔、と言ってもとても幼い頃の記憶である。
例えば、俺が幼稚園の頃とか。
小学生の頃とか。
まだ何も知らなかった、とても純粋な頃の記憶。
こういった事を、唐突に思い出す。時間がある時など、特に。
…ホ、ホームシックなのか?

日本でもそうなのだが、部屋を整理している時に、
昔、母親や父親に買ってもらったモノを見つける事がある。
下らないガラクタだったりするが、どうしても捨てられない。
捨てる気になれない。(それでも、いくつかは捨てたりしている。
昔、親に向かって吐いた暴言などを思い出すと、何だか無性に申し訳ない気持ちになる。
どの瞬間に、このスイッチが入るのかは、俺もわからない。
いきなりスイッチが入るのである。


…しかし、普段の俺はと言えば、決して真面目な親孝行青年では無い。
確かに、何処かに一直線になって走り、親を心配させたりオロオロさせる事はしない。
警察に世話になったり、いきなり病院に担ぎ込まれるような事もない。
これが孝行なのであれば、俺は、まぁ、十分に孝行息子かも知れん。
しかし、ウチの親の基準ってモノがどうもわからない…。
まぁ、俺は親の予想と期待に反して、変な息子になってしまった事に変わりは無い…


スイッチ。人間、誰しもスイッチがあると思う。
何かがキッカケでスイッチが入り、スイッチが切れる。
今朝なんか、いきなりエロスイッチが入って大変だった。
春休みで誰もいないし、日本人の女の子は出掛けちゃったし、
そもそもみんな彼氏いるからどうにもできないし(俺の道徳上ね)。
しかしティッシュも切らせているのでマスターベイビィも出来ない。
でもエロボルテージは上昇し続ける。どうしたモンかね。
仕方無いので、煙草を立て続けに吸って、気持ち悪くなってみた。
多少は、収まったけれど。今も、スイッチは切れてない…。

このエロスイッチの間にも、親孝行スイッチが入ってしまった。
「俺…何してんだろ…」とか。
「あの時、酷い事言ったよな、俺…」とか。
「あの時買ってもらったモン、どうしたっけ…」とか。
「俺、母さんの財布から幾らくすねたっけ…」とか。
そりゃもう大変なんである。
エロと切ないのと気持ち悪いのがごっちゃになって心を支配するんである。
こうなると、軽くパニックに陥る。


多くの物事を同時にこなす場合、優先順位をつけて順番にやるのがベストだ。
しかし、この場合、どうにもならんのが大問題だ。
まずエロはどうにもならん。スーパーにティッシュを買いに行くのが先だ。
その前にトイレに行きたい。しかし煙草も吸いたい。
あ…親父、俺が煙草常習って知ったらどんな顔すんだろ…。
…空気悪いな、窓開けよう。…寒い、何か着なきゃ。ああ洗濯しなきゃ。
…服無いなぁ。裸でいいか。その前にシャワー浴びたい。
…どうせならセクーツしてぇ。
と一人エヴァンゲリオン状態である。…全然違うか。違いますね。

ともかく、一つスイッチが入ると、連鎖する事がある。
連鎖すると、もうどうしようもない。どれかスイッチが切れるのを待つのだ。
切れるキッカケが、何かの歌だったりする。煙草だったりする。
それは、その時によって色々なんだけれど。

しかし、エロと親孝行スイッチは何時まで経っても切れ難い。
もう
「父さん、母さん、生きていてごめんなさい。」
などと訳のわからぬ懺悔を始めたりする。
「あとは妹に全てを費やして下さい」
とかマジで神様に言った事もある。
幸い、神サマはこの願いを聞き入れなかったが…。
もう一人でイッパイイッパイなんである。
しかし、同時にイッパイおっぱい、でもある。
懐かしいドラゴ○ボールのオープニングじゃないが、同時にエロなんでもある。
あーグチャグチャ。ぎゃー。


俺の親父はパーフェクトだ。出来ない事は無い。何でもやってしまう。
俺にとっては、ヒーローなんである。
多少、いじけ易いのと、酒癖が少し良くないのが問題だが。
暴れる訳でもない。少し絡み酒になるだけなので、良しとする。
いじけると、これはもう手に負えない。機嫌が直るまで、障らぬ神に祟り無し状態。
でも、言った事は全部やる。言わない事も、全部やる。
どんなに疲れてても、やる事は全部やる。
昔なんか、夜中に帰ってきたのに、家族を連れて、遊園地に行ってくれた。
車で、ずっと運転してて。やっぱり、俺の親父はすげぇぜ。
俺の性格が母親似であるため、最近は衝突が多いが…。

どんどん思い出す。今夜はスイッチが切れそうにない。


親父は、最近こう言う。
「もしも俺が、ジイサンになって、ボケちまったら、さっさと病院に入れてくれ」
って。でも、俺はそれをしないと思う。
俺の、憧れだった親父がそんなになっちまったら、俺はどうすりゃいいんだ。
勝ち逃げなんて許さない。俺は、そんなの許さない…言わないで、思うだけだけど。
もしも親父がそんな風になっちまったら、俺は親父を殺してしまう気がする。
完璧になんでもこなす親父を、俺は、崩したくない。
俺の中で、親父は何時までも、ガタイの良い、熊みてぇな親父なんである。

ちくしょう。また思い出しちまった。


バイト代なんかで、VSOPを買って帰ると、凄く喜ぶ。
何か、そんなのを見ていると、生きててよかったと思う。
家族が居てよかったと思う。
でもいつか、みんな死んでしまう訳だ。嫌だなぁ。


堕落した生活の合間に、思い出す。
親孝行って、親より先に死なない事だって、誰かの言葉を思い出す。
絶対に、親父より先には死なないようにする。絶対だ。
死にたいとか言う時もあるが、死にゃしない。絶対だ。
飛行機落ちたら、しょーがねーけど。そん時ぁ、諦めてくれ。
俺がここにこれを書いて居る事も知らないだろう。
いつか、これを読むんだろうか。
俺が先に死なない限り、無いだろうけれど、な。

愚図で、駄目なヤツだが。
親父、俺は今日も生きてるぜ。









今度、VSOPでも買って帰ろうかな。
そんな事を思った。

何か、親父の話ばっかになっちまったな。
消すかも知れない。


散文(批評随筆小説等) ふと、する Copyright 虹村 凌 2005-03-20 16:19:59
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
自由人の狂想曲