柚子の海
オキ




少女は浴槽に柚子を浮かべ、
指で押して湯に沈めるのが好きだった。
湯に体半分沈んだ柚子を、前へ進めてやるのが好きだった。
少女は一人のときも、母親と一緒に入浴するときも、
湯に浮かべた柚子を、押しながら、前へ前へと進めていた。
湯の浮力に弾かれても、手で押さえてやると、水面にうまく
はまって、前進させることができた。

少女の中では、浴槽は広い海原になっていた。
柚子は少女の夢の中にも出てきたが、たいてい
大きな黄色い船になっていた

少女は成長すると、フランスへ旅立った。
そこでフランスの男性と恋に落ち、結婚し、
子供も生まれた。女の子で、柚子と名付けた。
最近のメールでは、柚子のために、日本の柚子を
送ってほしいとあった。




自由詩 柚子の海 Copyright オキ 2018-04-15 15:49:48
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