ちいさく、微笑む
秋葉竹
ちいさく囁くのは、
この街に染められた心が勝手に、
懸命に悲鳴を我慢して漏れた
生き残るための
こころの絶叫のひとひらの花びら。
樹氷のビルの屋上に立ち、
過去の私のまぼろしが、
あたたかな眼差しで、私をみる。
私の眼は、雪の結晶を追うだけで、
視線がからむことはない。
この冬を越した
雪のピエロの叛逆たましいは、
歩道橋階段下の
ティシュー配りに疲れてしまった。
極楽浄土は西の空、彼方、
曲がりくねった灰色の低い雲の下。
子守歌を聴く安らかなベッドのうえで、
鏡に映る固まった微笑みが流す涙の色は、
誰の思い出も落ちてはいない
近所の公園を散策するにあたって
たったひとりで歩く女性の寂しさを
まるで後光のように際立たせるだろう。
そこに特別な生きがいや意味などなく、
もはやあの暖かい故郷の山の一軒家に
帰りたいものだと思ってしまうのだ。
その納得の仕方に
孤独の刃(やいば)の切っ先を向けて、
悲しみを笑顔に変えても
伝えられない想いを直接注入する。
実りのない優しさの花びらは、
ひらひらと陽光に煌めき
落ちてゆくはずだったのに、
もっと優しい、
全人類的規模の突風が吹いて、
まるで意思なきものの悲鳴のように
いいように流され続ける。
朝日が昇り、
この街の風景から濃い闇を奪い去るとき、
掴めない希望のシッポがゆらゆらと
まだ残っていた銭湯の煙突から
たなびく煙のフリをしても、
どこへも行けないって、涙が小雨になる。
そこに
青空のもと、
狐の嫁入りと伝えられる幾筋もの白い糸が、
だれのほおにもキスをバラまき、
節操ない優しさの花びらのフリをするのだ。
自由詩
ちいさく、微笑む
Copyright
秋葉竹
2018-04-06 04:56:31