北野つづみ

あなたを腕に抱いて、
わたしの背丈ほどの桜の若木の前に立った。
背丈ほどでも、小さな花が四、五輪咲いていた。
あなたにとっては、生まれて初めて見る桜。
なんでも触って確かめたい年頃だから、
あなたの手が届くよう、あなたを花に近づけた。
そして、まず、わたしがやさしく人差し指で触ってみせた、
桜の花びらを散らさないように。
あなたは、その小さくぷっくりとした手で
(しかもあなたの手は、
 わたしの手のなかにすっぽり納まるほどの小ささなのだ。)
花に触ろうと手を伸ばし、それから急に手を

引っ込めた!

そして、高らかに笑った、
青空の下で、大きく鈴を振るように。

それからは何度も、手を引っ込めては笑う、をくり返し、
幾度目かにようやく、桜の花びらに触れたのだった。

どんな喜びがあなたの上に訪れて、
そんなにもあなたを笑わせたのだろう。
わたしにはなんの変哲もない、ただの桜なのに。








自由詩Copyright 北野つづみ 2018-04-05 11:56:49縦
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