くちなわ
もとこ

闇の中で白い背中を
反り返らせていた君は
この夜が明ける前に
大人の女になってしまい
すっかり明るくなる頃には
どこか遠い林の中で
樹液を啜っているだろう

君と初めて出会ったのは
くちなわという名の細い坂
まだ春も浅い午後に
名も知らぬ薄紫の花を
スケッチしていた時のこと

通りがかった君は
尋ねもしないのに
「その花の名は……」と
耳に心地よい声で
僕に向かって囁いた

だけど今となっては
どうしても思い出せないのだ
確かに教えてもらったはずの
あの薄紫の花の名前を
そしてあの時の君がなぜ
紅い涙を流していたのかも


自由詩 くちなわ Copyright もとこ 2018-04-01 23:02:20
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