詩集だけ残った
高林 光

トイレで詩集を読んでいると
にゅるんと、出てきた

これはいい、便秘知ラズだ

お尻を丁寧に拭き、パンツとズボンを上げたあと
家中にある、たった四冊の詩集をかき集めて
トイレに並べる

それから、トイレで詩集を開くたびに
ぼくのお尻からは
にゅるん、にゅるん、と出る
むずかしい言葉をまとった
哲学者の能面も
ぼくをのけ者にした
よそよそしい郷土愛も
四十を過ぎていまだに衰えない
はだかの欲望も
たぶん一緒に
にゅるんと出ていったもんだから
なんだかずいぶん爽快なのだ

そのうちに
ズボンがゆるくなってきて
ベルトの穴があわなくなってきたので
サスペンダーでズボンをとめて
それでもぼくは
トイレで詩集を読み続けたものだから
にゅるんと出てくるものが
ぼくのうんちなのか
うんちのぼくなのか
だんだんと分からなくなってきた

便座に座って
遠くに眺めていたつまさきが
なんだかぼんやりと霞んできたから
あ、ぼく、なくなっちゃうかも
って思ったときに
にゅるん

読むものがいない、詩集だけ


自由詩 詩集だけ残った Copyright 高林 光 2018-03-23 10:16:05縦
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