仄かに炎
こたきひろし

体に火がついても
心に火は回らない

男と女
女と男

重なりあって
絡み合って
もつれあっても

心にまでは火は回らない

「ネェあたしのこと愛してる?」
女は訊いてきた
「愛してなんかいねぇよ」
男は本心を口にできる訳がない「もちろん愛してるさ」
男は口から出した嘘が後ろめたくて
女の愛を確かめようとは思わなかった

口でなら何とでも言えた
何度でも嘘をつけるさ

心なんて見えないものに
愛は芽をだし育つものだと教科書の中に書かれていた
綺麗で純粋なものらしい
自己犠牲の看板を立てて
錦の美旗を振らなければならないらしい

疲れるよ

男と女
女と男

愛の上に性が乗っかって走り回れば
ひひんひひんといななく馬と変わらない

二人の体に火がついても
心にまでは火は回らないものさ

回ったとしたら
それは単なる錯覚に過ぎなくて


自由詩 仄かに炎 Copyright こたきひろし 2018-03-19 23:46:34
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