出涸らしの慕情
笹子ゆら

あなたの云う、地獄と名のつく場所に連れていってくれと、私がいうのもおかしいので、その方へむかっていく背中を、みていた。煙草の煙にまざって、ゆらゆら幻影、だんだん、見えなくなっていく。私は噛む。爪を、噛む。視界がにじんで、そうやって最後には、なんにも見えなくなって、しまった。
それがあなたのお得意の、戦法だとしったのは、いつだったっけ。気が付かないふり、していたのかも、しれない。


 ストレスで、ごまかせなくなった肌、まつ毛の下のくぼみ、そうしたもの。
 落ち着かない心臓、指先の震え、そぞろな意識。
 取っ払ってくれると信じていたけれど、ほんとうはほら、引き寄せたのが。


パンドラ という名の
触れたような気がする
水のように滑らかに落ちて
道をつくる



お金を入れたらジャンジャンバラバラ落ちてくるわけでもない
銀色の玉が増えるわけでもない
なにも出てこないことだって
そうした ギャンブル みたいな世界で
誰かを好きになるのなんてやっぱり困難だから
掌の中には百円玉が握られたまま


落ちた、ような気が、した。私の世界へと。あなたのいう場所が。落ちた、ような気がした。掬い上げて、みようとしたけれど、あんまり、ほんとうにあんまり、きれいではなくって、私はその流動体を、捨ててしまいそうになる。でも、どうにか、あなたを、見えなくなったあなたを、内側に通したくて、やっぱり、掬い上げて、飲む。呑む。のみほす。


苦い



それでさ、と誰かが声をかけてくる。
私、は、聞こえないように、素通りして。
かみ合わなさに、さびしくって、泣きそう。


 不条理ばかりが盤上に並べられている
 あなたはそのハンドルを回す
 轟音はすべてを誤魔化すように
 息をすることも忘れて


引き攣る
きりもなく
キリキリ
意地汚く
追う

最悪だ



ここが地獄なら、果てならば、どれだけ楽だか。あなたは知らない、だろう。私の苦しみはまだ、このぬかるみに足をとられて、その最果てには到達して、いない。まだまだ続く。永延、続く。あなたの幻影がゆらゆら、ゆらりと、私の目の端で震える限り。
あなたは笑っている。笑っているから、私も笑わなくてはいけない。


私の純情/恋慕/劣情
そろそろ勝手にさせてくれ


いいだろもう
劣化しろ




自由詩 出涸らしの慕情 Copyright 笹子ゆら 2018-03-19 16:47:00縦
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