腰まで糞まみれ
はだいろ

齢(よわい)48にして、
うんこを漏らした。


通勤途中、他の社員と顔を合わせるのが嫌で、
いつも、遠回りして会社に行くのだけど、
途中、時間合わせで、コンビニで週刊誌でもめくっていたら、
ちょっと便意を催し、
落ち着いてトイレを探したのに、そのコンビニには、客用のトイレがなかった。
店員に頼むほど切迫はしていなかったので、
そのまま、急いで会社へ向かった。

ところが、赤信号で、待っている時に、
急に来た。
猛烈に来た。
第一波が来たので、ヒョコヒョコと小走りになる。
経験上、波を越えたところで速度を上げるしかない。
この波は三つくらいは越えられるはずである。
今までも、何度かこういうピンチはあった。
これが、年齢、経験、というものだ。


僕は、今まで、うんこを漏らしたことは、一度もない。
ただ、野グソはしたことがある。
小学校の頃、一回だけ。
駐車場の隅っこで、雑草を見ながら、うんこをした。
その草で、お尻を拭いたんだと思う。


そして、第一波をまさに感じながら、
坂道を急ごうとしていたら、
おそれながら、
なんというか、便意が、いうことを聞いてくれなかった。
ああ・・・
と思った時は、もう漏れていた。
量はともかく、はっきり、それを感じた。


48歳にして、この事態が訪れたということを、
受け入れることができないのだが、
しかし、
現実は事実である。(by談志)
ヒョコヒョコ歩きながら、必死の防衛戦となる。

左手を、後ろに回し、ズボンの隙間から、
パンツの後ろ側に突っ込む。
つまり、パンツの薄い衣ごしに、肛門に手のひらで蓋をする形となる。
この手のひらの形は、軽く、玉子を割らないように握るようにする。
ぜひ想像してほしい。

しかし、第一波をこらえ切れなかった僕に、
もはや、第二波に抵抗する術も気力も残ってはいない。
会社を目の前にして、もはや残りのうんこは容赦はない。
それは・・・
快感とはいい過ぎだろうが、
何がしかの遠いあきらめが、心のきついところをゆるめていくような。
パンツ越しの手のひらに、
生暖かいこんもりとしたうんこが、大きめのゆで卵のような重みを、
あっという間にもたらす。
ぜひ想像してほしい。


会社へ向かう人の流れの中、
必死でうんこを押さえつつ、
近場のトイレはどこかと、かつてないほど脳みそを回転させる。
最寄りのトイレでは他の社員とぶつかる恐れがあるため、
多少距離はあるが、ホテルのトイレへ向かうことを選択する。
まさに前衛での選択である。
常に真剣な結果を招く、まさに人生の選択がここに。


もしそのトイレの大の方に、誰かが既に入っていたら、
万事休したのだが、
もうそんなこと思い至らず、幸い、トイレは空いてて、
とにもかくにも駆け込む。
そして・・・
大惨事になっている・・・
ああ・・・
腰まで糞まみれ。
って・・・そんな平和を願うフォークソングってあったかしら・・・


パンツは手持ちの昼食を買った時のビニール袋に入れて口を結んだ。
トイレットペーパーを一玉使って便を拭き取り、
会社を急病で休むことも考えず、
ワイシャツの袖のところにもうんこがついてしまったけれど、
水で洗い、それでも取れない、きっとものすごく臭いだろう、
知らん顔でエレベーターに乗り、
パンツは捨てたので、
一日、パンツ無しで、仕事をした。(暇だったけど。)



何しろ、うんこを漏らしたという衝撃で、
一日潰れてしまった。
だが考えていることは、
どんなに偉そうな人も、どんなに嫌な人でも苦手な人でも、
かっこいい人でも可愛い人でも誰でも、
ああいう、僕みたいに、漏らしたうんこを必死で片手で防衛しながら、
ヒョコヒョコ歩いている姿を想像すれば、
(そして、どうして、あなたに、その日が来ないと言えようか)
面白くってたまらない、
つい、ぶぶっと笑ってしまうだろう、誰だって。


ああ、人間て、一度は、うんこを漏らしてみるものだよ。
寝っ転がって、今日のニュースを見ながら、そう思う。







自由詩 腰まで糞まみれ Copyright はだいろ 2018-03-17 22:55:28
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