あなたが来る
ただのみきや

一つの知らせ
一枚の枯葉のように軽く
風の悪戯な囁きのようで

隕石のようにこころ深く
波立たせ沸々と滾らせる
一つの知らせ


冷たい火夢を注射した男が蜥蜴になって
すばやく夜の路地をすり抜けるように
聞いて血はひた走る
幽霊のように否定と肯定をコンマ一秒で繰り返し
純粋に曖昧な情熱を隅々にまで送り込んだ
息づかいが変になるのは春のせいじゃない
羽化したばかりの虫の萎んだ翅をゆっくりと押し開く
見えざる水脈のしめやかな歌声にも似て
――おめでとう! 
季節は加速しながら巻き戻される
スイッチはとろけている甘ったるい熟れた匂いをさせ
縺れた視線から赤い蝋が垂れた

わたしの歩幅は広くなる
ああ喜びの良き知らせよ
陽炎を纏って瞑った向こう
路の結ぼれは解け
ふくよかな蝕に溺れながら

雪原に降り立った太陽の娘より
月に覗くあなたを
激しく刺青したい
死んでも構わないくらい
白紙の毒を飲み干して


一つの知らせ
一つの貝殻の沈黙から
潮騒はあふれ沖へと攫う

ふいの訪れに宿す
歓喜と狂気の結合双生児
一つの知らせ




              《あなたが来る:2018年3月17日》











自由詩 あなたが来る Copyright ただのみきや 2018-03-17 22:02:09縦
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