だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
水鳥 魚夫

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた

松の木峠
標高560メートル 
鳥海の村人の悲願は江戸時代まで遡る
日本のありふれた寒村だが
由利本荘 矢島町地方と雄勝湯沢町を繋ぐ という
この地域の農家の究極の幹線道路となるはずだった

丁岳 水無 大平キャンプ場 野宅 丁荘 天神橋 中村橋 笹子保育園 慈音寺 菊地旅館 月山神社鳥海総合支所笹子出張所 JA山田 道の駅鳥海郷 笹子赤館址金子安部太郎城址 法体の滝 月山 猿倉温泉 川内矢島 丁川 笹子川 小吉川 直根 百宅
108道 57道 院内銀山 雄勝 湯沢 等々

名所旧跡観光地とは言いがたいが
ありふれた田んぼにササニシキひとめぼれ秋田小町が踊る
秋の夕日に赤トンボが舞い1メートル先が見えない

川の水は名水何という物ではない
湧き水は全部飲料水 天然水に優る
地元の人は水の都お米のふるさとと言う

ブナの木を毎日切った それでも沢山残っていた
山菜も毎日採った それでも草より多く毎日生えてきた
亡父の刃渡り90センチもあるのか
太い木を切るためかノコギリの刃から上端までも大きい
上端は緩やかな弧を描いていた 80センチもあろうか 
そんなノコギリを思い出す

冬には激しく雪が降り 茅葺き屋根が見えなくなる
いちめんの雪がこの地域の農民を出稼ぎにかりたてる
春はふきのとうネコヤナギ堅雪と銀世界が現れる ここは夢の地だ

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
山あり谷あり聳え立つ崖を切り 埋めて斜面を削った幹線道路 夢の交通網
だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
由利地方と雄勝地方を結ぶ物流の拠点の地笹子地区
こう希望の星が満天に輝く

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
出稼ぎからも貧困からもこれで解放される 道路は救世主になる
だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
大企業が誘致され大学 総合病院デパートの建設が津波のように押し寄せるに違いない 

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
過疎の町から子供若者の育つ快適な暮らしが其処に手も届く距離だ
稲穂の田んぼは金の瓦屋根によく似合う
だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
将来この地の一角に東京ドーム2万個に相当するダム建設が予定されている
鳥海山の水は涸れることがない 海水は象潟羽後本荘日本海の水がある
古代ローマ人が用水路を作って都市を完成させた 平成の今日平成のモグラシールドマシンで 地中を掘り進めば工事もうまくいく 海水と鳥海山の自然水の融合 山の恵み 海の恵みこれらは八郎潟の再来になるだろう 過去の過ちを繰り返してはならない
ダム湖の完成の暁にはマス鮎を放流しよう ワカサギハゼ白魚年間3,000㌧の漁業資源の宝庫をこの地で復活させよう 善は急げ 金のなる木はここに植えられた

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
この地はやがて大都市に成長する 新幹線 巨大な空港 陸奥最大の都市は約束されている 奥州藤原氏が見たらさぞ驚愕するのか 

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
私はこの村の長 中興の祖として1000年は顕彰されるであろ 
土木部長も加えてやろうか
藤原道長のこの世をばわが世とぞ思ふ この心地する

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
この土木工事は300年の地域住民の宿願平成8年に竣工する
しかしこの切り通しの多い斜面の岩に院内銀山の銀が屏風襖の如く
夜陰に紛れ怪しく光るのに住民が気付く

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
誰が作ったこの道路 欲と見栄浪費破壊絶滅傲慢不遜ここは中東のバビロンの再来になる槍剣で突き刺されないのが幸いだ 私は悲しみの箒でこの地を掃く銀の斜面はこう言った 
だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
住民村役場共にこれはおかしいと気付く 頼みの本荘湯沢の商店が次々とシャッターを下ろしてゆく そうすると村の小学校中学 診療所 魚衣服文房具店 味噌醤米油プロパンガス取扱店 ドライブインガソリン給油所農協と見る見るうちに消えていった子供は生まれず若者は消えた 残った年寄りが雪下ろしのために死んだこんな悪いニュースばかりだ

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた
何かが狂っていた
壮大希有のテーマは何処に行った
おかしい こんなはずではなかった
村の墓地に木枯らしが吹き付ける今日この頃
道路は残り人は消えた
無人道路にカマキリトンボカエルヘビコオロギカジカウサギまで戻ってきた
動物 昆虫 爬虫類 川魚 植物 花この生態系が本来のこの地の有りようだった
だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた

誰が悔やみましょうか
歴史に悔恨など無い
歴史に過ちなど有ろうか
懺悔の値打ちが有るとしたら
これを顧みる勇気が無い このことのみだ

数々の失敗は来たるべき成功の妙薬
恐れず臆病にならぬ者だけが讃えられる檜舞台である
勇気のある人を讃え 腰抜け臆病を嫌うそんな風土ここに有り

町も寂れた
村も寂れた
孤高のこの山村こそ本来有るべき姿なのか

赤ちゃんもいない
嫁さんも来ない
残された老人と未婚の男若者部落
この部落のセレモニー を『無尽』という
村人が年2,3度集まる会食の儀式だが
村の豊作安全祈願厄払いも兼ねる

100年前1000年前3000,10000年前から先人は知っていた
江戸時代の人 縄文時代の祖先も弥生時代の先人もみな知っていた
働く我らに春よこい 冬に秋の農耕に疲れた体を休めよ
夏は乾いた大地に水を撒け
秋は収穫だ お祭りをして 神社にお供え物せよ
盆祭り 秋祭り 正月 節分 桜の花見

このように縄文時代は15,000年続いた
日本人は縄文時代弥生時代に帰れ
今とは言わない
死んで白骨化してからでも遅すぎる事は無い

人々の思いと夢 希望 望郷
なにも変わらなかったが
世の中社会暮らしがいつの間にか変わっていた

だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた


自由詩 だれも間違っていなかった、しかし何かが違っていた Copyright 水鳥 魚夫 2018-03-13 20:51:56
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