カイワレの野性
ブルース瀬戸内

細くて薄くてひょろくても
生きている音はさせられる

我々の名はカイワレですが
大根界では一目置かれてて
細くて薄くてひょろいのは
天まで伸びるためなのです

横ばかり気にしてしまうと
上昇浮上を忘れがちなので
比べても仕方のないことを
土に還して肥やしにします

我々の名はカイワレですが
大根界では一目置かれるも
見た目以上に栄養あるねと
トマト風情に褒められます

食用が前提の発言だなんて
野菜の野性を捨てたも同然
飼い慣らされた野菜なんか
逆に美味しくないだろうに

我々カイワレは運命と戯れ
非情な覚悟を強いられても
最後まで野性を強く貫いて
気高く食用の道を進みます

最後の最後まで伸びてやる
食べられる前に天に達して
天地にひょろりと君臨する
そんな心持ちでいるのです
だから滅多に食べないでね
そんな願いだってあります

我々カイワレは伸びる野性
我々カイワレは天を知って
だからこそ地を知るんです

ヒョロヒョロヒョロリンと
音を出して伸びゆくんです
音を出して生き抜くんです
ここにいるしそこに行くぞ
そんな思いで生きるんです

悩んでいるなら答えは一つ
私の身体につかまりなさい
我々カイワレは見捨てない
野性とあなたを見捨てない
ヒョロとヒョロリンの間に
しっかりつかまるんですよ


自由詩 カイワレの野性 Copyright ブルース瀬戸内 2018-03-07 21:26:11
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