ひとつ 光輪
木立 悟





鳴かない鴉の群れのなかで
黒い氷が鳴いている
解けては凍り 重なる肌を
斑な闇にまたたかせている


沈みかけた三日月が
ほんの一瞬むらさきになる
帆船が入港し
乗り込むものらは
誰一人帰っては来ない


河口から水源まで
川辺を舐め取る舌
水の光に吼える色
落ちる声 水紋 落ちる声


四角い空を
ずらして重ねた
ひとりの目には
映らない星


右側が欠けた曇の火矢
目にまぶたに
隙間無く刺さり
銀の粉を吹き揺れている


熱を奪うために触れ
熱を奪うためにくちづけ
やがて触れずにはいられなくなる
おのれの内の 午後の冬の樹


飛び立つ無言の黒の群れを
梳いては染まり 森を描く指
拳を包む手のひらの羽
凍える空を溶かすまなざし


銀の粉の壁 蜘蛛の巣の星
風にからみつく光の糸
距離を持たない歌の花
ひとつの小さな
輪に降りつもる
























自由詩 ひとつ 光輪 Copyright 木立 悟 2018-03-03 08:41:42
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