遥かなる故郷
ヒヤシンス


 流離う人は音も無く、夕日を背負って旅に出る。
 影も静かにその人に、別れを告げて消えてゆく。
 空には連れ行く雁たちが、山の彼方に飛んでゆく。
 母に涙は見せまいと、誓いを立てた若かりし時。

 寂れた冬の停車場は、記憶の中で病んでいる。
 淡い思い出彼方に去って、路面電車が勇んでる。
 過ぎゆく車窓の友となり、逃げる自分に未来はあるか。
 白髪頭の向かいの客に、父の面影宙に舞う。

 故郷を捨てたあの夜に、短く語る道しるべ。
 北へ、北へと歩みは遅く、未だ見ぬ景色の真ん中へ。
 ああ、夜汽車は走る、夢に向かってひた走る。

 流離う人は訳も無く、ただただ涙が溢れ出す。
 さらば故郷、さようなら。
 夢と希望を胸に秘め、愛と優しさ、今ここに。


自由詩 遥かなる故郷 Copyright ヒヤシンス 2018-03-03 05:09:46
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