クロッキー 3 脂喰坊主と九人の友達
AB(なかほど)



 すっかり忘れてしまった
 さびしんぼうの夜が
 ひざをかかえていた
 翌朝
 鏡の中の目は赤かった





 すっかり忘れてしまった貘
 の夢を食べた僕の夢
 を食べた獏のその夢を
 僕と獏
 が思いだせなくなるほうがいい



キルクル

 忘れようとして忘れられる
 なんて思っちゃいけないと首を
 クルリと回してニカッとするキルクルは
 やさしい
 やさしい風なのかもしれない



スコット

 あえの風と波の退く音がして
 スコット将軍も椅子につくと
 見覚えのある卓上遊戯にひとしきりの
 夢にとけて
 その朝に牌を置いて帰ってゆく



三郎

 あれからさんらーは
 縁石に腰掛ける星の番になり
 毎晩、朝はまだかと聞いてくる
 もう朝は
 君が消えてしまう朝は来ないよ





 うたー の上の口は餅を食べる口
 下の口は鬼を食べる口
 その願いが世界中に届くといいね
 それまで
 竃の横で、小舟の上で餅を作る



木精

 ゆうなんぎいはーめー
 の糸のつつつとして静かに
 編まれてゆく夜と朝の背中から
 ブルッと
 したらきじむなーに憑かれたんだよ



耳切坊主

 眠れない夜を歩くと
 あちらこちらの街角で
 みみちりぼうじが職務質問してくる
 朝を夜を
 その鋏で刻みながら



運玉義留

 こども達ののまぶいが
 偉い人達に抜かれてしまうんだ
 盗り返してくれないか、ギルー
 彼等の明日
 明日そのものが報酬になる



脂喰坊主

 おうい
 て声が聞こえる
 聞こえる
 振り返らない
 熊が山を降りてゆく
 呼ばれたわけでもないのに
 呼ばれたのは
 君じゃないのか
 とさっきから
 そこでしゃがんでいる僕に言ってみた

 ギルー
 ギルー 

 僕はもうアンダクェーじゃないよ 
 もうキジムナーにも会えないよ  

 ギルー
 ギルー

 僕はもう誰にも呼ばれないよ

 アンダクェーとキジムナーは
 山原に消えたよ





   


自由詩 クロッキー 3 脂喰坊主と九人の友達 Copyright AB(なかほど) 2018-02-27 23:58:20縦
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