ひとさらい
為平 澪

人攫いが家に来た
     革靴はいて背広着て
     お父ちゃんを借金のかたに連れ去った

人攫いが家に来た
     病気ばかりする子はいけないと
     私を家に帰しに来た

人攫いは呟いた
     いつまでも この稼業じゃ儲からない、と。

     街にはびこるスポットライトの巨大な電子看板
     ネオンの空とレインボータワーが 色と高さを競い合い
     地上でテールライトが長い尻尾の残灯を燻らす
     街頭にも路地裏にも道先案内人のスマホが喋り
     同じ顔したビルの窓辺にチカチカ光るスライドショー
     横顔だらけの会社員、一夜漬けの説明会

           ※

  街がサーカス小屋になった今、
  子供をさらって何になろう
  街が眩しくなった今、
  誰も人攫いを怖がらず、
  誰でも人攫いの顔をして、
  すべてで人攫いを馬鹿にする
     
           ※

私の父を 怖い顔で連れて行った人攫い
私の手を引いて 心配そうに家に帰した人攫い

     (私、くだらない大人になりました
     (今からでも どこかに攫っていただけますか  

私は人攫いと手を繋ぎ 
温かな、暗い所へ行きました


自由詩 ひとさらい Copyright 為平 澪 2018-02-22 22:17:46
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