時計
一輪車


七分、という時間はないのよ
電車を乗り継ぐ時間があるだけだわ
と女はいった

三秒、という時間はないの
日傘をひらく時間があるだけだわ
とも女はいった

それから彼女は快速に身をゆだね
見なれぬ街で
深々と黒い、じぶんの井戸に
身を投げる

三十分、などというものはないのよ
熱いお茶が冷める間があるだけだわ
と女はいった
五分、などというものはないのよ
汗がひく間があるだけだわ
とも女はいった

そのあとで彼女はセットの番茶で
猫舌の喉をうるおし
プロペラ型の扇風機で
ほつれた鬢をかわかす

匂いを感じるのは一瞬
頬を打たれるのも一瞬
と女はいった

そのあとでわたしに還った本当のわたしが
夕飯をつくり
つぎの日、
本当のわたしから抜け出た本当のわたしが
また、あなたに電話をかけるのよ

時間の長さを忘れさせるのは
時間だけだと女はいった

便りには
あなたはいつも時計だったと書かれていた


自由詩 時計 Copyright 一輪車 2018-02-14 10:30:57
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