復讐するは我にあらず
こたきひろし
果たして
絶望は希望の反対側に位置しているのか
ただ
いたずらに死への憧れを抱き始めた頃から
彼女の心には、空虚と言う厄介な蜘蛛が巣を張り巡らせていた
それは十代の半ばだったと思う
彼女は自分の感情の起伏をほとんど表に出さない少女だった
必要以外の口をきかない、ほとんど無口な存在だった
いつも、いったい何を考えているのかわからない
泣くこともなければ笑うこともなかった
でも
それは人前だけに見せる顔で、内心は気性の凹凸が激しいそうな匂いを
させていた
家族のなかでさえ、絶対的な孤独感にさいなまれていた
自然な成り行きとして他者を愛せないと同時に自分にも愛情と言うじょうろの水をかけられなかった
母親はそれを敏感に感じていた
自分の腹を痛めた子供でありながら
何かが欠落していると気づいていた
その結果、徐々に「可愛いげのない娘だと認識するようになった
先天的に肉体に異常を抱えていたなら
母性による盲目的な愛情の注ぎようもあるが
けして精神疾患とは思わなかったが、つかみどころのない精神の構造に冷たい感触を感じない訳にはいかなかった
死への憧憬は純粋ゆえに発生するのかもしれない
彼女は美しいものに心を洗われたいと願望していた
なのに十代の美しい心と体は日々汚れていくばかりだった
それに彼女は著しく苛立ち許せない気持ちになっていく
それを止める方法はひとつしか見つからなかった
雪の降りしきる日だった
彼女は自室のドアのノブに炬燵の電気コードをかけて
自分の手で自分を処刑した
最初から産まれて来なければよかったと
思いなから
遺書は残さなかった
不可解な自死には答えの見つからない
謎を残して