人形だって泣けるんだ
まーつん

沢山の偽物をつぎはぎして
自分という人形を作り上げた
糸と針で縫い合わせた、
建前と奇麗事のパッチワークを

ああ、
何も変わっていない
疑いを知らない、無垢な心を
この世界に差し出して
何度切り刻まれたことだろう

それでも
受け入れられたくて
本心を隠して

偽りの笑顔、偽りの言葉
目をそらさずに鏡を見つめても
記憶に残るのは影絵のような、
漠とした印象だけ

どこで誰といても自分だけが
別の星からやってきたような違和感
優越感と劣等感の間を
ハムスターのようにせわしなく
行ったり来たりしている
落ち着きのない心

僕が持っている「本物」は唯一つだけ
形も色も重さもないけど
否定しようのない、
己の胸を内側から潰していくような
この寂しさだけだ

生まれた時から
影のようにまとわり続けてきて
一度として振りほどけたことのない
この悲しみだけ

優しい笑みを浮かべて
手を差し伸べてくる君が怖い

僕から奪わないで、
人のふりする偽物から
奪わないで、この寂しさを
もしそれを失くしたら
自分の全てが嘘になってしまう

君に抱きしめられて
その温もりに安らいでしまったら
僕という存在は、風に吹かれた霧のように
飛び散ってしまいそうだ

例えば、君の部屋の
箪笥の上に足を延ばして
腰かけている、あの古い人形

あれが僕

あの人形だって泣けるんだ
人に憧れている間だけは
本物の涙を流せる

僕が持っている
ただ一つの本物

それは
この寂しさだけ



自由詩 人形だって泣けるんだ Copyright まーつん 2018-01-03 21:38:31
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